第一章初等整數論 §1整數ノ整除(後編)

前回は aの倍数の和や, aの倍数の倍数は, aの倍数であることを証明しました.

次ノ定理ハ基本的デアル.

[定理1.2]  aハ任意ノ整數デ, b\gt 0ナラバ,

 a=bq+r,0\leqq r\lt b

ヲ滿足セシメル整數 q,rガ唯一組ニ限テ存在スル.

除法の原理ですね.例えば a=13,b=4とすると

 13=4q+r, 0\leqq r\lt 4

を満たす q,rの組は q=3,r=1の唯一つです.これを小学校の算数以来,「 13 4で割ったときの商は 3で,余りは 1である」と表現してきました.

 aが負の数でも同様に商や余りを定義することができます. a=-13,b=4とすると

 -13=4q+r, 0\leqq r\lt 4

を満たす q,rの組は q=-4,r=3です.

無数の計算練習によって, a,bが与えられたとき,このような q,rの組は一通りであることはほとんど実感できていますが,証明できるようです.

[證]  bノ倍數ヲ

 \ldots\ldots,{-3b},{-2b},{-b},0,b,2b,3b,\ldots\ldots

ノヤウニ大サノ順序ニ並ベルト,ソレラノ中ニハ絶對値ニ於テ如何程デモ大キイモノガアルカラ,實數 xノ全範圍ガ

 qb\leqq x\lt (q+1)b

ノヤウナ無数ノ區間ニ分タレル.

実数を互いに交わらない半開区間に分けたようです.例えば b=4なら,

 \ldots\ldots-8\leqq x\lt-4,-4\leqq x\lt 0,0\leqq x\lt 4,4\leqq x\lt 8,8\leqq x\lt 12,\ldots\ldots

のように分けたような感じでしょう.

 aコレラノ區間ノ中ノ唯一ツニ属スルカラ

 qb\leqq x\lt(q+1)b

ニナルヤウナ qガ存在スル.

唯一つに属する,というのがミソですね.

然ラバ

 a-bq=r

ト置クトキ,

 0\leqq r\lt b.

まったくその通りですね.実際, 13 4で割った商と余りを求めるときは, 4q\leqq 13\lt 5q

すなわち \dfrac{13}4以下で最大の整数 qを求め, r=13-4qとして余りを求めています.操作的な証明ですね.

しかし実数を無数の区間に分けるのではなく,整数を無数の区間に分けるのではいけなかったのでしょうか?

いや,これによって実数にも商と余りが定義できるようになるのでしょうか.うーん.

 q,rガ唯一組ニ限テ存在スルコトモ明白デアルガ,念ノ爲ニ證明スレバ次ノ通リ.

確かに,他の q \dfrac ab以下で最大の整数でない q)であって,

 a=bq+r,0\leqq r\lt b

である rが存在しないことを明確に証明してはいませんでした.

若シモ

 a=qb+r,\qquad 0\leqq r\lt b

 a=q'b+r',\qquad 0\leqq r'\lt b

トスレバ

 (q-q')b=r'-r

即チ r'-r bデ割リ切レル.

一意性の証明の際は,「二つあるとして考えてみたけど,やっぱり一つだったよ」の形の証明が有効です. aを消去してみると r-r' bの倍数であることが言えます.ふむふむ.

然ルニ假定ニ由テ |r'-r|\lt b.故ニ r'-r=0,従テ q-q'=0.即チ q=q',r=r'

前編で証明した定理「 |a|\lt |b| a bで割り切れるときは, a=0である.」を早速使っています.もっと言い換えると, -b\lt a\lt bの範囲に bの倍数は 0しかないので, a=0です.

めでたくこれで唯一であることも言えました.除法の原理が証明できました!

整数 aと正整数 bが与えられたら, a=bq+r,0\leqq r\lt bを満たす q,rが一意に定まります.これを求める演算を整除法,剰余付き除法などと言うようです.

[例]  b=12トスレバ,

 a=50ノトキ, q=4,r=2.

 a=-50ノトキ, q=-5,r=10.

 a=-5ノトキ, q=-1,r=7.

例示ですね.他にも, a=5なら q=0,r=5となりますし, a=12なら q=1,r=0となります.

定理1.2ニ於テ r=0ナルトキガ,即チ a bデ割リ切レル場合デアル.

 r=0ならば a=bqだし, a=bqであるなら r=0なので,疑いありません.

 r\gt 0ナルトキニハ, rヲ「 bヲ法トシテノ a最小正剰餘」トイフ.

「あまり」が 0でないときは,「最小正剰余」というようです.「余」は「餘」の略字みたいです.

 q \dfrac abヨリモ大デナクテ,ソレニ最モ近イ整数デアル.

 \dfrac abより大でない,ということは \dfrac ab以下ということです.つまり

 q\leqq\dfrac abを満たす最大の整数ということです.

一般に實數 xヨリモ大ナラザル最大ノ整数ヲ [x]デ表スコトガアル(ガウスノ記號).

ガウス記号です.床関数 \lfloor x\rfloorと呼ばれることもあるでしょう.床関数はwikipediaによれば1962年に導入されたそうなので,この本には登場していません.

然ラバ q=\left[\dfrac{a}{b}\right]

 q a,bが決まれば一意に決まるので,これを表す記号があるのは大きいですね.ちなみにpythonなどのプログラミング言語では, qはa//bで, rはa%bで表します.

しかし頑なに「 qを商, rを余りという」みたいな文言が出てこないですね.もしかしたら,特に名前はついていなかったのかもしれません.

若シモ a/bヨリ大キクテモ,小サクテモ,ソレニ最モ近イ整數ヲ qトスルナラバ

 \left|\dfrac ab-q\right|\leqq\dfrac 12

これまでの \left[\dfrac{a}{b}\right] に等しい qとは異なるようです.

どんな実数も,何かの整数から \dfrac 12より大きくは離れていませんから,それはそう,ということになります.実数を覆いつくすように

 \ldots\ldots,~{-\dfrac 12\leqq x\leqq\dfrac 12},~\dfrac 12\leqq x\leqq\dfrac 32,~\dfrac 32\leqq x\leqq\dfrac 52,\ldots\ldots

のような閉区間に分割して考えれば, \dfrac abはこのいずれかには属すので,そこに含まれる整数を qとした,ということでしょう.

整数からの距離が \dfrac 12より小さいと隙間ができてしまうので, \dfrac 12が実数を覆いつくすことができる最小の数です.

ソノトキ a-bq=rトオケバ, |r|\leqq\dfrac b2

これは計算しただけです.

 \left|\dfrac ab-q\right|=\dfrac{|a-bq|}b=\dfrac{|r|}b\leqq\dfrac 12

なので,

 |r|\leqq\dfrac b2

が得られます.当然 rは整数です.

故ニ

 a=bq+r,~|r|\leqq\dfrac b2

ニナルヤウナ q,rハ必ズアルガ,コノ場合ニハ q,rガ二組生ズルコトモアル.

さきほど最小正剰余を考えたときは q,rがただ一組でしたが,今回は一組とは限りません.それは \dfrac abに最も近い整数が2つ存在するときです.たとえば \dfrac 52 2とも 3とも距離が等しく, qとしてどちらも取り得ます.

ソレハ bガ偶數デ, a \dfrac b2ノ奇數倍ナル場合デアル.

 \dfrac ab=\dfrac c2であり, cが奇数となる場合なので,まあそうでしょう. a=\dfrac{bc}2で, bが奇数だとすると bcも奇数なので aが整数であることに反します.よって bは偶数でなければならず,このとき a=\dfrac b2\cdot cなので \dfrac b2の整数倍です.

 a=(2h+1)\dfrac b2ナラバ, q=h,r=\dfrac b2;又ハ q=h+1,r=-\dfrac b2

 a=bh+\dfrac b2のとき, q=hとしても q=h+1としても |r|\leqq\dfrac b2です.

上記ノヤウニ, |r|\leqq\dfrac b2ナル rヲ「 bヲ法トシテノ a絶對的最小剰餘」トイフ.

絶対的最小剰余.最小正剰余の場合は |r|\leqq bだったので, rの絶対値が小さくなっています.その代わりに rとして負の値が出てきたり,唯一性が失われたりしています.特に r=0の場合が除外されているわけではないので, r=0のときも rを絶対的最小剰余と言う,ということなのでしょう.

[例]  b=12ノトキ,

 a=70ナラバ, q=6,~r=-2.

 a=-67ナラバ, q=-6,~r=5.

 a=30ナラバ, q=2,r=6又ハ q=3,r=-6.

例が載っています. q \dfrac abに最も近い整数をとっていけばよいので, \dfrac{70}{12}=\dfrac{35}6=5.833\dotsより q=6で, r=a-bq=-2です.

また \dfrac{-67}{12}=-5.583\dotsより q=-6で, r=a-bq=5です.

 \dfrac{30}{12}=\dfrac 52=2.5より q=2,3で, r=a-bq=6,-6です.