前回は,2つ以上有限個の,0でない整数の公倍数は最小公倍数の倍数であること[定理1.3]と,2つ以上有限個の,すべてが0ではない整数の公約数は,最大公約数の約数であること[定理1.4]を証明しました.
それでは読んでいきましょう.
次ノ定理ハ二ツノ整數ニ關スルモノデアル.
これまでは2つ以上でしたが,ちょうど2つに限定した話になるようです.
[定理1.5] ノ最小公倍數ヲ,最大公約數ヲトスレバ,
(但.トスル.)
有名な定理です.例えば,ユークリッドの互除法を用いて2つの数の最大公約数を求めることができるので,これを用いて最小公倍数を求めることができます.
この定理も,素因数分解の一意性によらずに証明できるようです.
[證] ハノ公倍數デアルカラ
(1)
トスル.
の誤植でしょう.となるが存在する,ということです.
サテハ勿論ノ公倍數デアルカラ,ハノ倍數デアル(定理1.3).
定理1.3は,「公倍数は,最小公倍数の倍数である」というものです.確かにはの倍数です.
由テ
(2)
トスル.
はの倍数なので,これを満たすが存在します.
(1)カラニ代入シテ
(3)
ヲ得ル.故ニハノ公約數デアル.
たとえば,にを代入して計算すると,が得られます.同様にが得られます.はの約数でもあり,の約数でもあるので,の公約数です.
あとは,これが最大の公約数であることを示せばよいです.
由テトスル(定理1.4).
定理1.4は,「公約数は,最大公約数の約数である」というものでした.はの約数なので,このような(ただし,)が存在します.を示せばよいです.
然ルニハデ割リ切レルカラ(3)ニ於テハデ割リ切レル.
がの約数であることからとなるが存在するので,(3)よりです.ここでなので,です.よってはで割り切れます.
についても同様です.
由テトシテ(1)ニ代入スレバ
.
代入するとこのようになります.
若シモナラバ,ガノ公倍数ニナル.コレ不合理デアル.故ニ,従テ.
背理法を使っているようですが,使わなくてもいけそうです.
上の式からはの約数です.よりはの公倍数なので,です.よってなので,です.
故ニ(2)カラ.
うーむ.公約数や公倍数を弄繰り回しているだけで証明できてしまうのですね.
ノ最大公約數ヲナル記號デ表ハスコトニスル.
もちろん,有限個の整数の組の場合です.
のようになります.
ガ以外ノ公約數ヲ有セヌトキニハ,略シテハ公約數ヲ有セヌトイフ.コノ場合ニハ.
略しすぎな気もしますが,それだけ「以外の公約数を有しない」という場合が出てくるのでしょうね.
ともあれ,は任意の整数の約数であるので,は必ず公約数になります.これら以外の公約数が存在しないなら,最大公約数はです.
特ニ二ツノ整數ガ公約數ヲ有セヌトキニハ,ヲ互ニ素トモイフ.
お馴染み,互いに素です.「公約数を有しない」は,「公約数がのみである」の略だったので,「2つの整数の最大公約数がのとき」と言い換えてもよいでしょう.
次ノ定理ハシバシバ引用サレルモノデアルカラ特ニ大切デアル.
[定理1.6] デ,且ハデ割リ切レルナラバ,ガデ割リ切レル.
素因数分解を考えれば当たり前な気もしますが,これを用いて素因数分解の一意性を証明するのだ,と聞いたことがあります.どうやら,整数や素数の定義によっては,これが成り立たないこともあるようなのです.
現在は整数として有理整数のみを考えているのですが,他の整数ではどうなるか楽しみですね.
[證] 假定ニ由テデアルカラ,ノ最小公倍数ハデアル(定理1.5).
定理1.5とは,というものでした.がの最小公倍数,がの最大公約数ですね.いまなので,です.
然ルニ假定ニ由テハノ倍數,従テノ公倍數デアルカラハノ倍数デアル(定理1.3).
はの倍数でもあり,の倍数でもあるので,の公倍数です.
定理1.3とは,「公倍数は最小公倍数の倍数である」というものでしたから,は最小公倍数の倍数です.
故ニハ整數,即チハデ割リ切レル.
がの倍数であることを示すには,がの倍数であることを示せばよい,ということでした.確かにの情報をどこかに入れなければならないので,当然と言えば当然だったかもしれません.