第一章初等整數論 §1整數の整除(前編)

序文によれば,有理整数(有理数であって,整数であるもの)だけで考察できるのが,第一章なのでした.

1. 本章デハ整數ノ整除,倍數,約數ナドニ關スル最モ卑近ナル理論ヲ述ベル.

整除というのは,いわゆる「割り切れる」というやつです.倍数,約数はさすがに分かります.序文は漢字かな交じりだったのに,本文は漢字カナ交じりなんですね.

中ニハ周知ノ事項モアラウガ,一應根本カラ系統的ニ考察ヲシテオク必要ガアル.

それはそうですね.

本章デハ文字ハ必ズ整數ヲ表ハスノデアルカラ,一一ソレヲ斷ラナイ.

文字は必ず整数. aとか bとかのラテンアルファベットのことであって,ひらがなやカタカナのことではないでしょう.

尤モ整数トイウノハ

 \ldots\ldots{-3},-2,-1,0,1,2,3,\ldots\ldots \

等,正及ビ負ノ整數ト 0トヲ總括シテ言フノデアル

 0から始まって, 1ずつ増やしていくと 0,~1,~2,~3,\dotsとなり,減らしていくと 0,~{-1},~{-2},~{-3},\dotsとなるのでした.よく知っている整数を具体的に述べています.

整數ノ和,差及ビ積ハ整數デアルガ,商ハ特別ナル場合ノ外ハ整數デナイ.

整数の和,差,積は整数です.ここでは認めてしまって先を急ぎます.

商が整数になったり整数にならなかったりするのは,具体例を示してしまえばよいですね.たとえば 2 1で割ると 2となってこれは整数ですが, 1 2で割ると \dfrac 12となって,これは整数ではありません.

 a/bガ整数 qニ等シイトキ,即チ

 a=bq\ (b\neq 0)

ノトキ, a bデ割リ切レルトイフ.

むむむ,違和感のある文です.「 a bで割り切れる」は, a,bに関する条件なのに,「 a=bq\ (b\neq 0)」は a,b,qに関する条件です.後半は,「 a=bq\ (b\neq 0)となる qが存在するとき」という感じでしょうか.述語論理に毒されすぎでしょうか…

ともかく, a/bが整数なら, a bで割り切れるのでした. 6 2で割り切れます,なぜなら 6/2=3だからです.みたいな意味ですね. \dfrac ab a/bは同じ意味です.

 a bノ倍數, b aノ約數トイフ.

まったくその通りです.先の例でいえば, 6/2=3なので 6 2の倍数だし, 2 6の約数です.

コノ定義ニ由レバ, 0ハ任意ノ整數 b(但 b\neq 0)ノ倍數デアル.

 0でない任意の整数 bに対し, \dfrac 0b=0です. 0は整数なので確かに 0は任意の( 0でない)整数の倍数だと言えますし,任意の( 0でない)整数は 0の約数だと言えます.

 0 0の倍数でしょうか.それは定義されていないので何とも言えません.定義する必要があるときに定義すればよいでしょう.

 |a|\lt|b| a bデ割リ切レルトキハ, a=0.( \left|\dfrac ab\right|\lt1ガ整數デアルカラ,ソレハ 0,從テ a=0.)

んん,一気に複雑になった気がします.大雑把に言えば, a,bが正の整数のとき, bより小さい整数 a bの倍数になるのは,  a=0のときしかありえない,と言っているようです.

証明はカッコ内にありますね. \dfrac{|a|}{|b|}=\left|\dfrac ab\right|\lt 1だから -1\lt\dfrac ab\lt 1です. \dfrac abは整数なので \dfrac ab=0です.よって a=0です.

次の問題は「数学オリンピック事典」という本に載っていた問題です.

 11x+1 x^2+3の倍数となるような正の整数 xをすべて求めよ.

 xが大きいとき 11x+1\lt x^2+3となるので, xの範囲を絞り込めそうです*1

 11x+1 0にならないので, 11x+1\geqq x^2+3でなければなりません.つまり 1\leqq x\leqq 10であることが必要です.このとき 11x+1 x^2+3の倍数となるような xを調べ上げれば, x=1,5であることが分かります.

こんな感じで, a bの倍数であるとき, |b| |a|より小さくなるような bが有限個しかないときは,時間さえかければ解決するはずです.

[定理1.1] 或ル整數ノ倍數ノ和,又ハ倍數ノ倍數ハソノ整數ノ倍數デアル.一般ニ a_1,a_2,\cdots,a_n bノ倍數ナラバ,

 a_1x_1+a_2x_2+\dots+a_nx_n

 bノ倍數デアル.

 aの倍数同士の和や, aの倍数の整数倍は, aの倍数です.当然な気がしてきます.定義に従って証明します.

[證]  \dfrac{a_1x_1+a_2x_2+\ldots+a_nx_n}b=\dfrac{a_1}bx_1+\dfrac{a_2}bx_2+\ldots+\dfrac{a_n}bx_n

デ,假定ニ由テ右邊ハ整数ノ和デアルカラ.

ある数 a bの倍数であるかどうかは, \dfrac abが整数であるかどうかを見ればよいのでした.ここでは

 \dfrac{a_1x_1+a_2x_2+\ldots+a_nx_n}b

が整数であるかどうかが問題です.分配法則によって

 \dfrac{a_1x_1+a_2x_2+\ldots+a_nx_n}b=\dfrac{a_1}bx_1+\dfrac{a_2}bx_2+\ldots+\dfrac{a_n}bx_n

とできます.ここで右辺に現れる \dfrac{a_1}b,~\dfrac{a_2}b,~\dots,~\dfrac{a_n}bは整数であり,整数の積や和は整数であるので, \dfrac{a_1x_1+a_2x_2+\ldots+a_nx_n}bも整数です.

*1:これが逆だと絞り込めず,無数の xについての探索になってしまう.このようなときは別の手段に頼ることになるだろう.